《1》

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  平日。午後13時過ぎ。 業務の合間を縫って、手早くランチを終え、化粧室へ。 大きな鏡の前で落ちたリップを直していたら、隣に並んだ同年代の事務の子たちが口を揃えて言う。 「御園さんっていっつもキレーだよね~」 「そうそう! 上司のオッサンたちにも超ウケいいし!」 「だって美人だもんね~うらやまし~い」 ……褒め言葉に見せかけた嫌味ほど、趣味の悪いものはないわね。 けれどここで言い返したりやり返していいことなんてひとつもないことも、十分承知している。 だから私は少し首を傾げてこう答えた。 「そんなことないわ。私なんてまだまだ……上手くいかないことの方が多いし」 ちょっと困ったような笑顔もお手の物。 私の返しに彼女達は少しだけ、嫌な顔をする。 ああ、ごめんなさいね。 謙遜するんじゃないわよ、って女の視線に怯むようなヤワな心臓じゃないもので。 .
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