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「赤ちゃんも頑張ってるのよ。お母さんも頑張って。」
黒縁眼鏡の女医が沙希にテレビドラマでお決まりの言葉をかける。
長い時間痛みに耐え、のたうち回っていた沙希には、もう体力がなく、一度気を失った。
「棚橋さん、起きて!」
細目の助産師が、沙希の肩を乱暴に揺さぶる。俺は悲鳴をあげそうになった。
「頭見えて来ましたよ。…はい、いきんで!」
「…う…、あああぁ!」
沙希の何も塗られていない、短く整えられた爪が、ギリギリと手の甲に食い込む。
普段はジャムの瓶すら開けられないほど非力な沙希の、俺の手を掴む恐ろしいほどの力に、額にじわりと汗が滲んだ。
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