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街道沿いのラブホを出ると、薄っすらと西の空がまだ明るい。
隣接するパチンコ屋の駐車場に向かって歩きながら、着信履歴の一番上にある”相原寛之”をタップした。
「ヒロちゃん、何?」
「おう芽衣、遅かったな。今どこだ?」
「海老名。これから帰るよ」
「じゃ、ワサビ買ってきてくれ」
「あいよ」
うちのマンションの1階はスーパー。
そして我が家はその2階なのだけど。
腹回りを気にしてる割には運動する気がないのねヒロちゃん。
「今日お刺身なの?」
「ああ、美穂子が鯛を釣ってきたんだ」
近所で居酒屋をやってる美穂子さんはバツイチの38歳。
店が火曜の定休日だから、客との付き合いで釣りに出かけていたのだろう。
「今さばき終わったところだ。売るほどあるから心配するな」
「ふーん。じゃあ、政やんとバッタリ会ったから連れてくよ」
「おう、ワサビ忘れないように気をつけてな。早くだぞ」
娘よりもワサビを心配したセリフで電話が切れた。
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