物語 - 2章 - の続き

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 霊安室の中は冷凍庫のようで、中央の台の上に1つだけ棺があった。  他の遺体がないので、政やんに合わせて普段よりも低い温度に保っていると説明があった。  白い手袋をはめた係員が周りに集まった全員を見渡し、そっと棺の蓋を開けた。  自分の激しい鼓動が両耳から聞こえる。  2日ぶりに見る政やんは、まるで眠っているようだった。  顔には傷がないけれど、頭の側面から後ろにかけては大きなガーゼで覆われている。  泣き叫んでしまうだろうと思っていたのに、不思議と涙が出なかった。  自分の体から心だけが離脱してしまったような奇妙な感覚があった。  気がつくとそれぞれのことを観察している自分がいた。  ヒロちゃんと遠藤さんを始めとする組員たちは拳を握りしめ政やんの顔をじっと見つめている。  シゲルが泣いている。  美穂子さんもじっと見つめたままハンカチで口元を覆っている。  突然大きな音がしたと思ったら、純也がパイプ椅子を蹴飛ばしていた。  更にもう一つの椅子に向かう純也をチャンパーが押さえてなだめた。  あたしは棺が開けられた時から呼吸を忘れていた。  *  次に気がつくと狭い畳の上で寝かされていた。  側に居た美穂子さんから、気を失ったのだと聞かされた。
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