物語 - 2章 - の続き

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 初めて聞く話しだった。  無鉄砲で浮いた存在だったはずなのに、殺されかけた自分のことを、体を張って救ってくれた先輩2人への大恩――。  政やんは、遠藤さんにはヤクザとしての忠誠を誓い尽くし、ヒロちゃんにはいつか恩を返そうとその機会を待っていたのだろう。  そしてヒロちゃんが男手1つであたしたちを育てることになった時、それを手助けし、子供たちを可愛がることで恩を返そうとしたのだ。  でもたとえ最初は恩返しだったとしても、その先で政やんはあたしたちを心底愛してくれた。  誰が何と言おうとそれはあたしたち兄妹が一番良く分かっている。  「あん時は小便ちびったな」  いつのまにか輪に加わっていた遠藤さんが言った。  「ああ俺もちびった。もう駄目だって何度も思ったぞ。助け出した時には3人とも顔の形が変わってたよな」  ヒロちゃんが言った。  あたしの失禁は遺伝だったのか。  「手当てするの大変だったわ。3人ともギャーギャー騒いで」  「美穂子さんも居たの?」  驚いてあたしは聞いた。  「あたしは溜まり場のドミソでバイトに励む女子高生だったのよ」  「よく言うぜ。裏でレディースの頭張ってたくせに」  遠藤さんが言った。  「その時ドミソのマスターが出してくれた酒がこれだったんだ」  ヒロちゃんがそう言い、白波のグラスを掲げた。  「3人で朝まで飲んだなぁ。口ん中が傷だらけで染みたが旨かった。」  遠藤さんも懐かしそうにグラスを掲げた。
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