13994人が本棚に入れています
本棚に追加
/1024ページ
一瞬。
ほんの瞬きの間だけ…
リーンの眼前に、巨大な顔が浮かび上がる。
揺らめくそれは形状を定めず、獣のようにも、人間のものとも見てとれるようだった。
目の錯覚かとも疑ってみたが、この時のリーンの記憶は疲れ果てていたにしてはやけに鮮明で、頭の中に響いてきた言葉はいつまでも心の片隅に残っていた。
『遂に我が肉の楔を解き放ったな、ザミルの子。これでーー』
「オオォオオオォー!!!!?」
声は大陸竜の痛烈な悲鳴に遮られ、その存在も掻き消したように散っていく。
「も、もう無理ー…」
リーンの帰還を待ち、今も岩肌の穴を塞ぐまいと切り開いた剣の柄を握り続けるリズリットとカザミ。
スピアーに取り囲まれた二人は、剣を手放さないようにしながら、片腕で得物を振るい、攻撃を防いでいた。
当然、巨鎚と大剣は片手で扱えるほど容易な武器ではなく、点々と攻撃を許した箇所も出てくる。
そろそろ限界が近い、そんな事が頭を過ぎった時である。
突然、スピアーの1体が激しくのたうち回り始めた。
それは感染するように周りに広がり、すぐにも群れ全体に広がる。
「ど、どうなってるの?」
唖然とする間もなく、二人の眼前からどうどうと流れる水流のような音が鳴り始める。
「…気をつけろリズリット!何かくる!?」
「えっ?えっ?何かってナニ…キャアァアー!!?」
「うおぉっ…!?」
刹那、岩肌を吹き飛ばして躍動(やくどう)する力の奔流が、リズリットとカザミを呑み込んだ。
浜辺にいたハンター達の目には、大陸竜の背中が噴火したように映ったというーー
最初のコメントを投稿しよう!