それぞれの始まり

5/7
13992人が本棚に入れています
本棚に追加
/1024ページ
━━スプリングリット━━ 『この大陸を出て世界を見てみたいんだ。だから当分は帰って来れないと思う』 昨晩、そう決意を告げたリーンは朝早くから準備を整えていた。 「リーン、朝食たべていく時間くらいあるだろ?」 「うん、もらうよ」 母がテーブルに皿を並べると、リーンは手を止めて席に着く。 テーブルの上には野菜がたっぷり挟まった3段重ねのサンドイッチに真っ赤な激辛スープが注がれた皿が置かれている。 「いただきます」 そう言ってリーンはゆっくりと朝食を食べはじめる 暫(しばら)く食べることができない母の味をしっかりと覚えるかの様にーー 「…あの鎧は持っていかないのかい?」 朝食を食べ終えたリーンが新調した赤い鎧に袖を通していく最中、母は胸に赤い星がペイントされた片見の鎧に目をやる。 「…うん、思い出を荷物にしたくないしね」 そして振り返ると、少し困ったような笑みを浮かべた。 「それにーーもう小さくて着れないんだ」 ーー旅立ちの朝、リーンはもう19才になる。
/1024ページ

最初のコメントを投稿しよう!