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沙樹が、いないのに気が付いた俺は、後ろを振り返る。
階段を下りてくる足音がしない…。
「榊、…沙樹が、来てないんだ。
ちょっと見てくるよ。先に、行っといて。」
「おう。…高志達に言っとく。いつもの店な。」
「了解!!」
俺は、榊を残して、下りてきた階段を、逆に、登り始めた。
橋を渡ったのは、間違いないんだ…団地の中へ?
そう思った時だ…。
一際、大きな雷が、また鳴った。同時に、なんとも言えない、背筋のゾッとする獣の鳴き声が、空に響く…。
「…沙樹。」
俺は、心拍数が上がる…あの声がする方に、沙樹がいると、なぜだか確信できた。
団地に入ってすぐに、小さな児童公園がある。
そこの遊具の高い部分に、幼い子供が、二人いて、その子達を抱え込むように、沙樹がしゃがみこんでいる。
遊具の周りに、野犬なのだろうか…十数匹が、取り囲んでいる。
どうやら、そこに、3人は、追い込まれているみたいだ。
緊迫している空気の中に、踏み込んでしまって、俺は、まったく身動きが、出来なくなってしまっていた。
ジリジリと輪が狭まって行く…。
「逃げろ!!沙樹!!」
意を決して叫びながら、前に、一歩踏み出すが、野犬どもが、俺を、遮る…。
その時になって、気付く…こいつら、野犬なんかじゃない…。
見た目は、確かに犬だったが、口は、耳まで裂けているのかと、思うくらい大きくて、牙が、ヌメヌメと、光っている。
沙樹も、あの子供も…もしかしたら、俺も、噛み殺されてしまう…。
絶望を遮るかのように、高らかな、明らかに、目の前の獣とは違う、遠吠えが、聞こえる。
それは、突然、現れた…白く輝くような2匹の犬だった。
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