Act.1 落雷

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沙樹が、いないのに気が付いた俺は、後ろを振り返る。 階段を下りてくる足音がしない…。 「榊、…沙樹が、来てないんだ。 ちょっと見てくるよ。先に、行っといて。」 「おう。…高志達に言っとく。いつもの店な。」 「了解!!」 俺は、榊を残して、下りてきた階段を、逆に、登り始めた。 橋を渡ったのは、間違いないんだ…団地の中へ? そう思った時だ…。 一際、大きな雷が、また鳴った。同時に、なんとも言えない、背筋のゾッとする獣の鳴き声が、空に響く…。 「…沙樹。」 俺は、心拍数が上がる…あの声がする方に、沙樹がいると、なぜだか確信できた。 団地に入ってすぐに、小さな児童公園がある。 そこの遊具の高い部分に、幼い子供が、二人いて、その子達を抱え込むように、沙樹がしゃがみこんでいる。 遊具の周りに、野犬なのだろうか…十数匹が、取り囲んでいる。 どうやら、そこに、3人は、追い込まれているみたいだ。 緊迫している空気の中に、踏み込んでしまって、俺は、まったく身動きが、出来なくなってしまっていた。 ジリジリと輪が狭まって行く…。 「逃げろ!!沙樹!!」 意を決して叫びながら、前に、一歩踏み出すが、野犬どもが、俺を、遮る…。 その時になって、気付く…こいつら、野犬なんかじゃない…。 見た目は、確かに犬だったが、口は、耳まで裂けているのかと、思うくらい大きくて、牙が、ヌメヌメと、光っている。 沙樹も、あの子供も…もしかしたら、俺も、噛み殺されてしまう…。 絶望を遮るかのように、高らかな、明らかに、目の前の獣とは違う、遠吠えが、聞こえる。 それは、突然、現れた…白く輝くような2匹の犬だった。
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