Act.1 落雷

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目の前で起こっていることが、信じられなかった…。 突如現れた白い犬は、たったの2匹で、あっという間に、獣どもの半数を、倒してしまった。 跳ねる姿は、まるで、舞を舞うように、優雅で軽やかで…。 攻撃の爪や牙は、確実に、獲物を仕留めるハンターのようで…。 降りだした雨をものともせず、すくっと立つ姿は、綺麗だった…。 獣どもは、分が悪いとでも思ったのだろうか、中の1匹が、なすすべのない俺を、まず標的に絞り、目指して走ってきた。 ああ…今度こそ、ダメだ…だけど…大好きな沙樹を、助けられないままに…死にたくない…。 そう思った時、聞こえた。沙樹の声が…。 「氷呀!!…お願い!!恵を助けて!!…お願い!!」 氷呀…? 聞いたこともない名は、2匹の犬の片方の名のようで、矢のように、走ってくる。 視界に、それは、入っている…でも…真っ赤な大きな口が、目の前で開かれている。 さよなら…沙樹。 「ギャウゥゥ…グゲッグゲゲ…ゲッ…」 覚悟した痛みの代わりに、表現しようのないおぞましい断末の唸りが、聞こえた。 あの耳を塞ぎたくなるような断末魔は、急所らしい喉元に、噛みつかれたからだということは、わかった。 そして、獣の開けたられたその口の中は、漆黒の闇で…それに飲み込まれそうになりながら、真っ白な塊が、黒い獣にぶつかる瞬間を、確かに、俺は、この目で、見たんだ。 助かった…!? 自分が生きていると、実感した刹那、足が震えだし、立っては、いられなかった。 …死ぬって、こんなに、恐いことだったのか? 股間の辺りが、生暖かいのに、気付く…。 ものすごく格好悪い…。 だけど、それが、その時の俺の真実だったんだ。
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