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目の前で起こっていることが、信じられなかった…。
突如現れた白い犬は、たったの2匹で、あっという間に、獣どもの半数を、倒してしまった。
跳ねる姿は、まるで、舞を舞うように、優雅で軽やかで…。
攻撃の爪や牙は、確実に、獲物を仕留めるハンターのようで…。
降りだした雨をものともせず、すくっと立つ姿は、綺麗だった…。
獣どもは、分が悪いとでも思ったのだろうか、中の1匹が、なすすべのない俺を、まず標的に絞り、目指して走ってきた。
ああ…今度こそ、ダメだ…だけど…大好きな沙樹を、助けられないままに…死にたくない…。
そう思った時、聞こえた。沙樹の声が…。
「氷呀!!…お願い!!恵を助けて!!…お願い!!」
氷呀…?
聞いたこともない名は、2匹の犬の片方の名のようで、矢のように、走ってくる。
視界に、それは、入っている…でも…真っ赤な大きな口が、目の前で開かれている。
さよなら…沙樹。
「ギャウゥゥ…グゲッグゲゲ…ゲッ…」
覚悟した痛みの代わりに、表現しようのないおぞましい断末の唸りが、聞こえた。
あの耳を塞ぎたくなるような断末魔は、急所らしい喉元に、噛みつかれたからだということは、わかった。
そして、獣の開けたられたその口の中は、漆黒の闇で…それに飲み込まれそうになりながら、真っ白な塊が、黒い獣にぶつかる瞬間を、確かに、俺は、この目で、見たんだ。
助かった…!?
自分が生きていると、実感した刹那、足が震えだし、立っては、いられなかった。
…死ぬって、こんなに、恐いことだったのか?
股間の辺りが、生暖かいのに、気付く…。
ものすごく格好悪い…。
だけど、それが、その時の俺の真実だったんだ。
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