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エレベーターで下に降りた俺達は、カーペットが敷き詰められた静かな廊下を進む…
「木村さん…」
「ん?」
横を歩く木村さんは、呼びかけた声に反応はしたけど、俺が視線を向けなかったのを見てか、顔はこっちに向けず意識だけを投げてくれていた。
「どうした?」
「…あの。 彼女に話そうと思っているんです、過去の事。
一緒になるなら、いずれ話さなければいけないし…。もう俺自身も前の時のように悲観に暮れたりはしないと思うので」
「うん。 いいと思う…菜緒ちゃんもその事、気にしてた」
…そうだよな、前に話した時カナリ中途半端だったから。
「まあもし、振られたら慰めてやるから」
「不吉な事言わないでくださいよ」
「はは…でも本当に俺いるからな、いつでも奏が帰れる居場所ぐらいにはなってやれるから」
真剣な目を向ける木村さんは昔のように俺の頭をわざとらしくグシャグシャと撫でた…
木村さんも美加も輝彦さんも、周りにいる人達は、みんな呆れるぐらいに寛大で温かい…
それをずっと見て見ぬ振りして逃げてた自分に今は恥さえ感じる…
「じゃあ頑張れよ」
「…ええ」
ぽんぽんと肩を叩く木村さんに軽く会釈した後、前に進むなら今しかないと自分に言い聞かせ朝比奈の待つ部屋の扉を開けた…
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