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『杉浦さんなら今さっき帰りましたけど』
「えー本当? 聞きたい事があったんだけどな」
一足遅かったかぁ、なんて桜課長は苦笑いを浮かべる……
年齢は俺より少し上だけど、肩まである髪をクルクル巻いているせいか、それとも笑うと自然に出来る笑窪のせいか……俺なんかよりずっと若く見える。
「そっかあ、もう帰っちゃったんだ。
なんか支社から戻ってきた杉浦さんって憑き物が落ちたように早く帰宅するようになったよね? 結婚もしたし、やっぱり家がいいのかなあ」
『そりゃまあ新婚っすからね』
支社から戻ってきた杉浦さんが左手の薬指に指輪をしてきた時には、本社中でしばらく騒ぎになった。
まあ、杉浦さんも部長や専務には事前に説明の電話をいれてたみたいだけど……それでも女っ気のまったく無かった彼の突然の結婚報告にはみんな驚いたようだった。
「堀川くんはさ、杉浦さんとプライベートでも付き合いあるの?」
『あ、はい。 普通に家とか遊びに行ったりしてますよ』
そう答え桜課長に視線を向けると急に彼女は手をモジモジとさせ、上目遣いで俺を見上げる。
「じゃあ、さ。 もしかしてだけど……彼の奥さんとも面識あったりする?」
様子を伺うようにそう聞く彼女に少し首を斜めに傾けながら当然のように頷く。
面識もなにも支社ではずっと一緒に仕事してたし。
『ありますよ面識、それに彼女 昔この本社にも来てた事あるんですよ』
「え!? そうなの? い、いつ? 」
身を乗り出す彼女に不信感は更に膨らんで首を傾げたまま桜課長に疑問を投げかける。
『なんでそんな必死なんすか? まるで恋する乙女みたいっすよ』
冗談を含むその言葉に冗談で返してくると思いきや桜課長は恥ずかしそうに黙って俯く。
って まさか本当に杉浦さんの事?
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