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「ふぁあ~、おはよー」
なんてことのない平日の朝、あくびをしながら那緒(なお)が起きてきた。黒いショートヘアが所々跳ねているのはいつものことだ。台所で朝ごはんの支度をしていたくせ毛のメガネっ娘、風伽(ふうか)は包丁を動かす手を止め、姉にニコニコと挨拶をする。
「なおお姉ちゃんおはよーです♪」
「風伽おはよー♪ぎゅーっ」
「えへへ~」
あたかも仔犬を可愛がるように、那緒は風伽を抱きしめ、風伽も心底嬉しそうに那緒に甘える。これも至っていつものことで、この姉妹は小さい頃からべったりなのだ。
二人がキャッキャウフフ♪してると、メガネの少年が間に入った。二人の次兄で那緒の双子、真澄(ますみ)だ。
「何すんのよ真澄ぃ!」
「うっせ。那緒、風伽にベタベタするなよ、朝飯が遅くなる。風伽も。さかな焦げてるぞ」
「ふにゃっ?…あぁあ?!」
真澄に言われて振り向くと、コンロに置かれた網の上でアジのひらきがぶすぶすと黒い煙を立てていた。あわてて風伽が火を消したが、本日の朝ごはんの主菜は無惨にも真っ黒な炭と化していた。
「裏の中村さんからもらった、すっごくいい干物だったのにぃ~」
無機物になったアジの前で、風伽はがっくりと肩を落とす。真澄がまたかと溜め息を吐く一方で、那緒はわたわたしている。
「あー、えっと風伽?あたし今日はだし巻き玉子食べたいな!風伽のだし巻き玉子!!ね?!真澄っ」
「え?あ、あぁ」
「お姉ちゃぁん…お兄ちゃん」
「砂糖味の、甘ーいやつ!おねがいっ!!」
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