ある男の呪縛

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何年となく、僕は酒を飲み続け、しかし一辺たりとも吐いたことなぞなかった。 先輩には、貴様は宇宙人だと言われた。あるいは、貴様は宇宙人によって作られた対飲み会サイボーグで、こうして地球人を全員酔い潰す作戦なのだろうと。 だとしたら、僕はとんだ失敗作だ。 アルコールの本来果たす役割とは、飲酒者を酔わせて気持ちよくさせることであって、いくら飲んでも酔わないのであれば、高い金を払って酒を飲む意味がない。コーラでも飲めばいい。 事実、普段僕はそうしている。たまに事情を知らない者が無理に飲ませてくることもあるが、そういうときは大体返り討ちにあって、そいつの世話までしなけりゃならなくなる。 とんだとばっちりだ。たまには僕だってお世話されてみたい。 だからあの夜、舌も凍りそうなほどに冷えたキリンビールに僕が口をつけたのは気の迷いというか、久々にビールの味を確かめようかってくらいの気持ちだった。 僕の目の前に座った彼女は言った。 「ビールって不味くない?」 一応サークルの定例飲み会なんだが、海上を漂う幽霊船みたいなサークルだから、集まるメンバーも毎回違っていた。未だに会長が誰なのか僕は知らない。 だから、当然彼女のことも知らなかった。 「不味いね」 「なら、なんで飲むの? ……ああ、酔っ払えるからか」 得心した、というように彼女はにやにやと笑った。その決め付けてかかった態度に僕は少しムッとした。いくら飲んでも酔えないマイノリティもいるんだぞ、ということだ。 「俺は酔えない体質なんだ」 「へえ、お酒強いって言う人はいるけど、酔えないなんて言う人は珍しい」 彼女のその言葉に、頭が少しくらりとした。案外僕は彼女にムカついてるのかもしれない。
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