飴か鞭か、それとも愛か

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いつからか… それは、どこからのことを言うのか。 地元の大学を卒業して、少し離れた今の会社に就職した。 通えないわけではない距離だったけど、一人暮らしに憧れていたので、ワンルームの部屋を借りた。 ロフトの付いた小さな部屋。 初めての自分だけのテリトリー。 実家では妹とずっと同じ部屋だったから。 その初めての自分の部屋を自分の好きなインテリアで飾った。 実家から持ってきたチェストとベッド。 でも好きな柄の布地を被せてカーテンとコーディネートしたりして。 電化製品とあと必要な日用品は親に買ってもらった。 部活ばかりでバイトなどしていなかったから。 仕事の方は… 大きな会社ではない。 親会社があって、それの地方出張所。 主にオフィス機器を扱う会社で、この不況で新卒者を何年も雇っていないほどの会社。 たまたま、産休を取る方がいて、求人が出たという事らしい。 同期はいない。 数人のおばさんの事務員。 若めの女性は男性社員に紛れて、営業でほとんど会社にはいない。 話をする相手もいなくて、電話番と書類の整理をするだけの毎日。 慣れてきたら、なんかいろいろと教えてくれるといっていたが。 いつから… という話に戻るが、 私の初めての相手は、この会社の所長。 妻子持ち。 初めて話をしたのは、 草野球チームのメンバーが足りないと、 中、高、大とソフトボールをやっていた私にお声が掛かったとき。 「吉永さん、レフト守ってくれないかなあ…」 突然に。 戸惑う私に、所長は、 「大丈夫。いてくれるだけでいいから。 どうしても一人足りないんだよ… 今回だけ!」 とてもイヤとは言えない。 だって、ろくに話すらしたこともない所長なのだから。 月に一度ほどの草野球らしいが、健康的に日焼けして笑ったときの白い歯が眩しかった。 多分、その時にはもう… 好きだったのかもしれない。 高校球児だったという所長は、その名の通り逞しい腕に胸板。 30を少し回ったその歳で、その体を維持するために毎日鍛えているのだろう。 傍にいるだけでドキドキした。 草野球は楽しくて、つい本気を出してしまった。 「いいねえ。力強い助っ人が現れた。 今日からレギュラーな!」 な、なんで? もう日焼けはしないと決めたのに…
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