飴か鞭か、それとも愛か

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私一人のために更衣室のあるグランドにレベルアップしてくれて… その気遣いがとても嬉しかった。 練習や試合の後の食事会。 初めて話をする男性社員たち。 仲間になれた気がして、それも嬉しかった。 色黒で、何の取り柄もない私が唯一、人に自慢できること。 高校の時には県大会で優勝したこと。 大学ではキャプテンを努めたこと。 それだけ。 そんなこと、社会人になったら何の意味もないことだとは知っているけど、 でも、それしかないんだもん。 犠牲にしてきたことの方が多い。 女の子なんだから、日焼けには気をつけなさいという母親の言葉も聞かずに真っ黒になって、 男子との楽しそうな飲み会や、みんなで遊びに行くという誘いも断ってきたんだ。 だから、男の子と付き合ったことがない。 キスさえ、まだだった。 ドラマや映画のキュンキュンの恋に憧れて、私もいつかこんな恋をするのだと信じていた。 でも、実際には… 所長には奥さんもお子さんも居ることが解っていたのに、好きになってしまっていた。 冷静に考えれば、所長の優しさは当然だった。 男の人のなかで一人の新入社員が、それも女が泥に紛れてグランドを走り回っているのだから。 ン。 と渡してくれるスポーツドリンクが嬉しい。 苦しかったら休憩にしようか? そんな言葉を掛けてくれる。胸がドキンとした。 塩飴舐めろ。 と渡してくれる手が触れて、張り裂けそうになる。 そんな、学生の時には自然に聞いていた言葉が嬉しくて、 心の中で頬を染めた。 好きなんです…所長のこと 酔ってた。 二人とも。 帰る道が一緒だといつもアパートまで送ってくれていた。 野球のあとの飲み会の帰り。 あの日は、腹具合が悪いと朝から言っているのを聞いていた。 「ちょ… トイレ…いいかな…」 アパートの前で 所長が。 そうなれッ と念じていた。 まだ誰も招き入れていない自慢の部屋に迎え入れるのは所長であって欲しいと。 念じたことが現実になると、今度は気持ちを伝えたくなった。 酔ってたから。 気持ちが大きくなっていたんだと思う。 知らないから。 好きになったらどうしたらいいのか、 駆け引きとか、何も経験してこなかったから…
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