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どうしたのか…
なんか…視線を感じる。
顔が冷たい。
目を開けると…
坂本部長!
顔をのぞき込んでいる。
おでこには濡れたタオル。
ここは…?
うちだ。私の部屋。
なんで?
思い出せない。
「具合が悪いのなら無理しなくても良かったのに。
こっちの方が大変だ。」
「私…」
「倒れたんだよ。
私が居てよかった。所長は今日から本社で打ち合わせだし、
みんなはまだ帰ってきていなかったから。
名簿を見てここに運んだ。
悪いがバッグの中から鍵を出させて貰ったよ。」
所長が本社?
聞いてない。
何も言ってくれなかった。
帰る前には私と…
ずっとそうしてきたのに。
奥さんとはしないからって、いっぱい愛してくれたのに…
気が付かないうちに涙が流れていた。
目の前が霞む。
解っていたのに。
所長はあんなことを言いながら、本気で奥さんと別れる気はないと。
私を繋ぎ止めておくための嘘。
独り暮らしで人肌が欲しかっただけ。
「失恋かな…?
もしそうだとしたら、3日泣いたら楽になれると思うよ。
泣かなきゃ楽にはなれない。
明日も休むって会社には言っておくよ。
風邪で熱があるらしいって。」
寝かされたソファーで我慢しきれずに泣き崩れた。
背中を向けて、声を上げて…
「いい人が見つかるよ…
失恋は、そのための準備だ。
所長のところの夫婦みたいにお似合いでラブラブの相手が見つかる。
理想なんだ。
スポーツマンの旦那にキレイで料理上手な奥さん。可愛い子供が居て…
俺もあんな家庭を作りたいな…ってね。」
背中を撫でながら話してくれる言葉が全部、私の心を切り裂く。
「…………ぶ…です…」
ん?
坂本部長が優しい声で聞く。
「もう……大丈夫、です…」
独りにして。
これ以上聞きたくない。
これ以上聞いたら、心が粉々にちぎれてしまう…
「ごめん。
今何を言っても悲しいだけだね…
帰るよ。
食べたくないだろうけど、やけ食いって言う方法もあるから。
じゃあ。
鍵を掛けるんだよ…」
部長が帰って行ったドアを見つめる。
なんで?
なんで話してくれなかったの?
もうすぐ赤ちゃんが産まれるから…?
そのことが頭を締め付ける。
鍵をかけようと立ち上がる。
ふと目に入った玄関に飾った写真。
所長とこの部屋で写した写真
部長に見られた!
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