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その日から3日休んだ。
食べられない、眠れない。
フラフラして、起きあがることもダルい。
電話をする事もできない。
かかってもこない。
今頃…
奥さんの大きなお腹に幸せそうに手を当てて、
(早く出ておいで~)
なんて言ってるんじゃないかと思うと、狂いそうになる。
「食べてないんじゃないかって思ってね…」
坂本部長が夕方、部屋を訪れた。
何か言われるんじゃないかと気が気じゃない。
玄関の写真は片付けた。
休んでいたら誰かが来るかもしれないと。
でも、この前の時、見られていたら…
「いろいろ買ってきた。
スーパーの出来合いだけどね。
消化に良さそうなものを選んだんだけど。
フルーツとかも。
ちゃんと食べてる?」
写真のことは何も言わない。
気が付かなかったのだろうか。
確かに、昼間でも玄関は電気をつけなければ暗いし…
玄関先で、それだけ言うと、スーパーの袋を手渡して帰って行った。
ありがとうございます…
それだけしか言えなかった。
何か言うと、ぼろが出てしまいそうで。
次の日には出社した。
いくら何でもこれ以上休めない。
これ以上休んだら、もう会社には行けない気がしたから。
実際のところ、休んでいた間、帰ろうと思った。
実家に帰って仕事も辞めて、新しい私を始めたいとも思った。
そう想いながら、
所長がいつ帰って来るのか、帰ってきたらすぐにここに来てくれる。
と、待ってた。
幸せな奥さんの元から、私の元に返ってきてくれると、
待ってた。
「吉永さん、ひどい顔してるわよ。もういいの?」
事務所で他の事務員のおばさんたちが声をかけてくれる。
大丈夫です。
と、デスクに座ると書類が山のようになってる。
「ゴメンね、急ぎのはみんなで手分けしたんだけど、
そっちまで手が回らなくて…
みんな手一杯なのよ。」
そうなんだ。
人手が足りないんだ。
もう二人くらい欲しいところだが、この不景気で人を増やせないという事らしい。
おかげで集中できた。
忙しさと数字の羅列に集中すると、忘れられた。
行き場のない不安が。
でも、
残業までして仕事を終えると、つい考えてしまう。
部屋に帰ろう…
帰って、あの人を待とう。
窓の鍵をかけて、電気を消して…
扉に手をかけたときに電話が鳴った。
所長?
とっさに電話を取った。
でも、取引先だった。
担当は不在だと伝えて、電話を切る。
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