77人が本棚に入れています
本棚に追加
「おや、布都さん?相変わらず仕事熱心ですね」
奥でパイプ椅子に腰かけて、何やら巻物に謎の粉を振りかけていた黒縁眼鏡の男が顔を上げる。仕事熱心と褒められてもやりたくてやっているわけでもない夜刀の心境は複雑だ。
「仕事熱心というかなんと言いますか……これ、例のやつです」
「おおっ、これはこれは……では失礼して」
夜刀から差し出された緑石をルーペでまじまじと見つめる。しばらくして顔を上げると癖のある長髪を結んだヘアゴムを直すように自分の頭を撫でた。
「確かに、若干だけど魔力を感じる。そろそろ100個を超えそうだねぇ、これは……」
「そんなに集まったんですか?」
夜刀は驚いたように石を見つめる。このちっぽけな緑色の石を見つけるのがどれほど難しいか、骨身に染みて分かっているからだ。
「犬塚君と牧原君が優秀すぎるから、僕の仕事も捗るよ」
力なく笑って見せたのは比羽支部の支部長――榊 桐彦(さかき きりひこ)。比羽市の事態収拾にあたって派遣された、古い言い方では学師と呼ばれる、呪具や魔具といった魔術の専門品から神話・民間伝承の鑑定を扱う研究筋の魔術師である。
「この石ってあの後に出てきたんですよね?こんなちっちゃいのでも集めないとダメなんですか?」
桐彦の手の中にあるのは、比羽市の調査が始まってすぐに市内あちこちから発見されるようになった物体である。
詳しくはまだ調査中とのことで夜刀は詳細を知らないのだが、聞いたところによると、これは僅かな魔力を帯びた魔術媒体で、本来は然るべき手順を踏んで、時間をかけて生成するものらしい。
夜刀が見つけるものはどれもビー玉よりも小さいサイズだが、調査初期では大岩クラスの媒体が見つかっていたらしい。
そんな高純度な媒体があちこちにあるせいで妖魔が寄ってくるわ龍脈は乱れるわと現場は大混乱。まずは大規模な媒体の捜索と回収が行われたと聞く。
最初のコメントを投稿しよう!