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「小さくてもこれだけ純度が高いと何が起こるか分からない。集めておくに越したことはないんですよ。まあ使い道も色々とあるから、損ってことでもないですしね」
夜刀からしてみれば手間をかけさせるだけのはた迷惑な石ころだが、専門家からしてみれば色々と使い勝手の良い代物のようだ。
「これを見てください」
そう言って差し出されたのは先ほど巻物に振りかけていた粉末のようなものだ。何なのかまったく見当のつかない夜刀が口を開く前に、桐彦は説明を始める。
「これは【呪審箔(じゅしんはく)】といって、呪具や魔具の鑑定に使う道具です。砂鉄が磁石に引き寄せられるというのはご存知ですか?」
「あー……小学校の時に理科とかでやりましたかねぇ…」
古い記憶を辿ってみると、そんなことをした記憶がある。
「それと似たようなもので、これは魔力に引き寄せられるんですよ。魔力の発生源だとか、出力に偏りがある場所を見つけるときに使います。霊視力では判別のつかない微妙な差異って結構あるんですよ」
「それもそういう意図で?」
夜刀が指さした巻物を見て、桐彦はニッコリと笑う。
「そう、これは著名な魔術師――当時で言う陰陽師が残したもので、書いたものに魔力を宿らせた書物なんですよ。まあ言霊の派生みたいなものですね。これはそこに宿った魔力の差から術的な意味や暗号を読み取ろうという手法です」
「そんな本を書くって何か意味があるんですか?」
いまいち魔術というものに浸かりきれていない夜刀からしてみればわざわざ魔力を込めた文字を書く意図が分からない。
「単純に自分の書を後世に残すために魔力で保全しているだとか、それ自体が魔具だったりだとか色々理由はありますが……どれにも共通するのは、そういうものは大抵、物騒なことが書かれているんですよ。不老不死や反魂の法、禁忌とされているものは世の中腐るほどありますから」
すると、玄関のほうで人の気配がした。夜刀は一般の客かと思ったが、ここは明確にこの古本屋を意識していないとたどり着けない一種の結界の内にある。こんなところにわざわざやってくるのは局員くらいなものだ。
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