暗雲

3/11
前へ
/11ページ
次へ
 イギリスでの戦いを終え、一悶着あったものの無事に帰国。【プロンディス】の目的が何だったのかは分からずじまいだったが、イギリス王立魔術協会が目下調査中とのこと。  そうなると一個人でしかない魔術素人の夜刀に出来ることなどなく、そのまま日本に帰国。しばらくの間はアルバイトに勤しんでいた。  アルバイトといっても廃墟に巣食う妖魔を滅したりといった危険なアルバイトである。  「知らん、面倒だ」  ささやかな非難も見事に一蹴される。我が家で一番金のかかるくせに一切仕事をしない。  一方で、フェリシアはイギリスにあった家を売ったおかげで十分しのげる額を持っている。  パーシヴァル家は家庭菜園の愛好家が買い取ったそうだ。思い出を手放した彼女の心中を察することは出来ないが、彼女が望んだことならばそれでいいのだろう。  ―――――ピリリリリリ  味気のない初期設定の着信音が聞こえ、画面を確認すると玉穂からだった。  「もしもし」  『も……もしもし』  相手は玉穂なのだがいつもはハキハキしている彼女に比べて若干疲れているような声色だ。  「お疲れさん。そろそろ解放されそうか?」  『少なくとも今週中には。クラスの友人との約束もありますし……』  まだ学校に入って一ヶ月程度だというのに夏休みにクラスの友人と遊びに行く予定があるらしい。  クラス変わって四ヶ月経っても友達出来ませんが、それが何か?  『どちらにせよ夜刀さんには絶対に会わせないそうです……本当に申し訳ありません』  「俺は別にいいけどさ―――やっぱ怒ってる?」  『仕事で判を押している間もずっと無表情でピクリともしないくらいには……』  仏頂面で黙々と書類仕事をこなす竜慧を思い浮かべる。簡単に想像できてしまう自分が嫌だ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加