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高天原――――星静院
「お姉様」
携帯を切った竜慧の部屋に玉穂が訪れる。
いつもの黒いカラーコンタクトは外しており、赤い瞳がさらけ出されている。
“見たものを腐らせる”魔眼を持つ彼女は不安定ではあるが、こうやって徐々に目をコントロールしていくために時折、抑えであるコンタクトを外している。
「なんだ?」
ここ数日竜慧の事務処理の手伝いをしていた玉穂は事務方面で才能を発揮していた。
彼女は第一線の魔術師としてよりも政治分野での才能がある。昨今の高天原では若く、裏方の才能を有する人材は貴重なのだ。
危険な前線よりも安全なところにいてほしいという竜慧の思惑もなくはないが。
「なぜ夜刀さんにこちらの件をお伝えにならなかったのですか?彼にこそ最も関係のある事柄だと存じ上げますが…」
そう言って書類のひとつに目を落とす。
「いま余計なことを吹き込むよりもすべきことを優先させているだけだ。いずれは教える」
彼女たちの間にある机の上に広げられたいくつかの書類の中に一際異彩を放つものが一枚あった。
それは他と違って英語で書かれた書類。イギリス王立魔術協会と教会の総本山ヴァチカンが公式書類へ用いる刻印が並んで押されている。
『今回のイギリス本土への襲撃、および周辺諸国への権利侵害をもって魔術結社【プロディンス】を危険因子と判断。上記結社への対処としてヴァチカン・イギリス・イタリア・フランスならびに各国所属の魔術組織による正式な連盟を発足。貴国におかれては―――』
要はプロディンスを脅威に感じた欧州が彼らを世界共通の敵として認定し、協力して殲滅しようということだ。
重い腰で有名な教会までもが名乗りを上げたのだからかなりのやる気が窺える。
これはそれに高天原――ひいては日本の参加を要請するもの。
イギリスで実際に【プロンディス】相手に目まぐるしい成果をあげた夜刀を擁する日本が欧州魔術組織にはよほど魅力的に見えるようだ。
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