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熱さ真っ盛りの太陽の光を一身に照り返すアスファルトの上をゾンビのようにゆっくりと歩く半袖シャツ姿の少年がいた。
「こ、このままじゃ過労で死んじまうぞ……俺」
言うまでもなく夜刀であり、ゾンビではなくどちらかといえばゾンビを倒す側の存在なのだが、同業者が見れば一瞬妖魔の類を間違っても仕方がないような衰弱っぷりだ。
それも、ここ最近のアルバイトの多さが原因なのだが、色々と弱みを握られているというか後ろめたいことのある夜刀は断るに断れない。食い扶持の増えた身にしては収入があるというのはありがたいのだが、それも限度がある。
「これが噂に聞くブラックというやつか、絶対訴えたら勝てるぞ…」
化け物相手に刀を振り回す仕事に法律が適応されるのか甚だ疑問ではあるが、とりあえず受けた仕事には変わりないので高天原“比羽支部”に向かう。
―――そう、比羽支部である。
二ヶ月ほど前に裏社会を震撼させた高天原襲撃―――比羽市は高天原という一つの世界を墜とす場所に選ばれた一種の忌地である。
襲撃犯である神がなぜ比羽を選んだのかは正確な解明はなされていないが、その影響で比羽という土地は龍脈や霊場が乱れ、妖魔を引き寄せるどころか、一時期は“発生させる”レベルまで荒れるという大規模な霊害を受けた。
最初の一ヶ月こそ高天原の魔術師や関係者による数百人単位で大規模な浄化や霊脈調査が行われたものの、浄化や霊場修復のプロである五家の一角“立春”(たちはる)の指示のもと、ほぼおおまかな修復は終えている。
しかし、いくら修復したところで完璧とはいかず、経過観察や調整が必要であることには変わりない。それに伴い、比羽市の霊的な復興のために小規模ながらも支部を置くことが決まり、数名の魔術師が常駐することになった。
因みに、妹がこの土地で暮らすことになるのでしっかり監視をつけたいとある有力者の強い後押しもあったとか無かったとか……内容は定かではない。
夜刀が向かったのは比羽駅の中心から離れた雑居ビルが立ち並ぶ一角。より正確に言えば小さな古本屋である。
「こんにちはー」
開けっ放しの戸を軽くノックして暖簾をくぐる。狭い店内にはどこの誰だか分からないような著者の本が並べられており、夜刀はそれらに一切目もくれずに奥に向かう。
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