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狭い洗面台にお湯を張り、その中に仔猫を入れると、仔猫はみいみい鳴いて、暴れて抗議しました。仔猫どころか、動物を洗ったことなど一度もない私は、おっかなびっくりでひっかき傷だらけになる手の痛みも忘れて、懸命に洗いました。
乾かす頃になると、仔猫はようやくあきらめたように大人しくなりました。
濡れた毛が乾くと、思っていたよりもずっと白くて驚きました。そしてそのふかふかした白い綿毛の様な柔らかな毛の間に何かがもぞもぞと蠢くのを見つけました。
私が仔猫の毛をかき分けていると、義父がこう言いました。
「ノミがいるんだな。ちょっとかせ」
義父は私から仔猫を奪うと、毛をかき分けながら、両手の親指の爪で上手にノミを追い詰めてその爪の裏で潰しました。
私にもやって見るように言われたので、しぶしぶ、義父の真似をしてノミを爪で潰しました。
プツリ。
耳には聞こえない音が小気味よく、私の指先に響きました。
命の爆ぜる音。
それに私は一瞬で夢中になりました。顔に何か白い物が飛んでくるのもお構いなしに潰し続けました。
ユタカさん。貴方と一緒にいるとそれに似た感覚が度々押し寄せて来てたまらなくなるのだと言ったら、私はまた貴方に薄暗い女だと言われてしまうのでしょうか?
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