ホテル

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「まいったなァ」  米村は満点の星が輝く夜空を見上げて、呟きをもらした。  米村は貿易会社に勤める営業マンであった。ただの貿易会社ではない。宇宙を相手にした貿易会社なのだ。  時代は進み、宇宙人との交流が一般的になり米村が勤める会社も本格的に方々の星へと営業の手を伸ばすようになった。彼は、このアサス星との貿易交渉に抜擢された派遣社員なのだ。オーバーな言い方をすれば、貿易会社の代表者だ。  そんな米村が、空を見上げて、呟きをもらしていたにのには訳がある。仕事がうまくいかなかったのではない。むしろ、成功して会社にも良い報告ができた。あとは、この星に数日、滞在した後に地球へと帰る手筈だったのだが、そこで思わぬ事態に彼は見舞われた。  数日、泊まる予定でいた中心部のホテルが廃業していたのだ。アサス星に来るまでの間の出来事だったらしく、米村は星に着いてから、その知らせを聞いた。  ここが地球ならば、いくらでも泊まる場所を見つけることはできた。しかし、ここは異境の星。言葉や文化の壁があって、簡単に宿泊施設を見つけることはできなかった。  唯一、地球の言葉が通じるホテルに電話を掛けてみたが、どこもかしこも、予約で満席だった。  まさに、思いもがけない事態だ。情けないことに、米村はこの星で野宿を余儀なくされた。宇宙空港に戻ろうにも、あそこは安全の為に宿泊することはできない。  夜空を明るく照らす星は今となっては、米村にとては貴重な明かりであった。  街中にいても、どうすることもできない米村は仕方なく、アサス星の田舎道を歩いていた。特にあてがあるというわけでもなく、何となく都会で野宿するより、いくらか安全だと思ったからだ。 「おや?」  田舎道を歩いていると、米村は道の片隅に光る何かを見つけた。駆け寄ってみると、怪しいネオンの光りが印象的な看板が立っていた。どうやら、ホテルの案内板らしく、ご丁寧と場所と電話番号まで書かれていた。  ガイドブックには載っていないホテルの名前であったが、この際、泊まれるのならばどこでも良かった。米村は携帯を取り出して、ダメもとでそこに電話をかけてみた。
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