ホテル

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 とはいえ、米村は飛び込みで入った客だ。ベッドが堅いのは我慢するしかない。道端で地面に直接、寝っ転がるよりはずっとマシだった。 「シャワーでも浴びて寝るとするか・・・」  ベッドは仕方ないと思いながら、米村は荷物を置いくと衣類を脱いで、シャワールームに入り、蛇口を捻った。  直後、米村は慌てて蛇口を締めた。 「これは、何だ?」驚いた。蛇口を捻り出ていたのは、冷たい水でも熱いお湯でもなかった。濁った油だ。どうして、油がシャワーの蛇口から出るのか。米村は不思議に思った。水道も同じだった油がドロリと水の代わりに出てくるのだ。 (さては、水道管でも壊れたな)  外見は素晴らしいホテルであったが、どうも内装はヒドイらしい。水の代わりに、油が出てくるようでは。だが、それも米村は目を瞑った。異境の地で、あまり贅沢は言えないからだ。ホテルが見つかっただけでも幸運だった。 「仕方ない」  米村は身体についた油を持ってきた飲料水で洗い流して、シャワールームから出てきた。シャワーの故障は、明日にでもホテルに言えばいい。彼は寝間着に着替えると、ベッドで横になった。  やはり、堅くて身体が痛くなりそうなベッドだ。我慢するしかない。 「そう言えば。受付で、パンフレットを貰ったらな。たしか、この中に睡眠中にサービスをしてくれると書いてあったが」  何か心地良い音楽でも流れるのか。疲れ切っていた米村は、深く考えずにパンフレットに従ってベッドのボタンを押した。
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