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真世の退社時間に合わせた香奈たちの打ち合わせだった為、真世はこのまま直ぐに帰宅するつもりだった。
香奈を置き去りにするような感覚が胸を締め付け、そのままホテルのラウンジに入り気を休めることにした。
よく冷えたアイスコーヒーをカラカラの喉に流し込み、大きくため息をついた。
ガラス張りのラウンジは太平洋が一望できた。
離れ小島に立つこのホテルからキラキラと光る水平線をボンヤリと見ていた。
この結婚は香奈にとって、OKしなければならないものだった。
病気の父親と育ちざかりの弟がいる家庭。
弟の将哉はサッカーの強豪私立高校の特待生として地元を離れ、寮生活を
している。
幾ら授業料免除の待遇を受けていたとしても二重生活の家庭内はかなり火の車だ。容易に想像ができる。
短大を出たばかりの香奈に、就職する頭はなかったようだった。
香奈の就職活動を止めたのは優斗だった。
香奈を独占したいが為の無理強いで、そのまま香奈に結婚を迫った。
香奈の家庭内の悩みは、全て優斗が解決してくれるのだと香奈は言う。
弟のバックアップはサッカーファンでもある優斗がしてくれるらしい。
そんな姉を思うからか、将哉は一年生ながら必死でレギュラーの座についたらしい。
父と弟を思う姉と姉を思う弟から、この結婚が成立するのだ。
優斗と出会う前の香奈は、真世同様、彼氏などいたことがない、今時珍しい大人しい子だった。
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