プロローグ

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「入るよ」 そう一言だけ訪問者は言い、返事も聞かずに扉を開けた。 当然のように回されたドアノブは、然るべきでない者の手によって鍵を閉められる。 丁寧にもチェーンを掛け、寒そうに身体を震わせた男は、日本特有の広く取られた玄関を無視して靴のまま部屋に上がり込んだ。 訪問者の着ているコートの肩は少しだけ濡れており、その静けさから外で雪が降っているのだと分かる。 男は被っていたフードを下ろし、コートを脱いだ。 それと同時に、男の印象ががらりと変わる。 決して深くまで踏み込まないと知らせているような、一度聞けば強く印象に残る声は、その外見を予想させない。 大人でもおかしくはなく、はたまた中学生でも変ではない。 この場合は、高校生のようだった。 不自然に伸びた前髪と揉み上げを持つ少年。 これもまた、すれ違えば十秒程度は記憶に残りそうな特徴的な外見。 着飾れば美少年にも美少女にもなりそうな中性的な顔立ちは、同年代というより母親方からの受けが良さそうだ。
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