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納得はあとから思考についてきたオマケのような感情で、驚きの方が大きかったのか 芦谷も言葉が続かなかった。
「ああ、やっぱり本人じゃないと、いけませんか。僕は・・・えっと、失礼な意味ではないのですが こういう・・・病院は初めてで」
麻野は握った右手を左手で包みながら芦谷の反応を待った。
「いえ。大丈夫ですよ。ご家族の方がお話に来られるケースも多いのでご心配なさらずに。」
芦谷はまた麻野と向き合うようにして座り直した。ゆっくりと顎をさすると、しばらく考える仕草をしてから咳払いを1つ響かせた。
「奥様のことで、何か抱え込んでいらっしゃるようですね。先ほどの看護士もこの診察室の声は聞こえておりませんので。」
話せ、と言うニュアンスはあくまでも伝えずに先を促す芦谷の言葉に麻野は罪悪感を感じて慌てた。
、
「すいません・・・。あの、何と言ったらいいのか。・・・妻がちょっと、変なんです。いつもというわけではないんですが」
芦谷は小さく頷いた。
「知らないはずの場所を懐かしんだり、まるで行ったことがあるように話したり・・・」
「ふむ」
芦谷は眉を上げて、麻野が話を続けるのを待ったが 麻野も芦谷の言葉を待っているようだったので無言で頷く。
「あとは・・・ちょっと、普通の人と違う考え方というか。時々なんですが・・・」
聞く限りではそういった性格の持ち主なのかとも思ったが、心療内科に来てまで話すというのは何かしら関係性に大きなストレスが生じているのだろうと
考えた芦谷は、下唇を少し突き出してから顎をさすった。
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