scene007

47/49
前へ
/347ページ
次へ
「それは事実上キスはあったと言う事ではないんですか!?」 灰の言葉にキュッと喉のあたりが締まった。伏せてた目を思い切って上げると一瞬で灰と目が合う。 「キスはあったんですよね!?」 「は?……だからキスは」 ボクに向けられた視線が色を変えたように見えて、それから会議中とは思えない威圧的な雰囲気を出し始めた。何かを振り切ったような灰は迷いもせず言葉を続ける。 「俺はキスという行為は、愛情とか敬意とかそういう己の気持ちを相手に示す物だと考えています。それも相手は特別親愛な人。だから先程述べたように俺はあれをキスとは呼べない」 灰は一つ空気を吸って、また眼孔を鋭くした。威嚇的にそれは会議室を取り囲む緊張感を帯びた空気を作る。 「まぁ、これは持論ですし、唇が触れているだけでキスだキスだと喚くような感性の欠如した人には理解出来ないでしょう。別に理解していただく必要はありません。日々数字しか追いかけていない貴方には難しいのですから。あと俺がキスをするのは1人だけ、ゆ」 「はいっ!!TTのメリットとデメリットを教えてください!!」 気付いたら椅子を倒す勢いで立ち上がり 程度の低い質問で灰の言葉を遮っていた。会議室中の視線が突き刺さる。 とっても痛い。 「それは先程説明しましたよ?如月先生」 にっこり微笑んだ灰はそれから時間を掛けて優しく分かりやすくボクに向けて説明してくれた。それはとても地獄のような時間だった。
/347ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2705人が本棚に入れています
本棚に追加