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嫌がっているような反抗的な手を無理やり引っ張ってグランドに出ると一瞬の静寂を飲み込むように地響きを感じる歓声が上がった。夏くんも何やら実況しているらしいが、絶叫し過ぎて聞き取れない。
にしても卒業後もこの歓声は流石。と思い、諦めたのか素直にボクに引っ張られる鈴城くんを窺うとバチッと目があった。
不意に湧き上がってくる懐かしさに思わず感動してしまいそうになった。
「…なんか泣きそう」
「止めてください。そういうの…もう少し成長しているのかと思っていました。残念です」
「懐かしい!」
よしっ!と鈴城くんから元気を貰ってラストスパート。
声援が質を変えた。
落とされたゴールテープを踏むと灰がいた。灰の目の前にはお題発表の為のマイクを持つ小野塚先生。横目でボクを見た小野塚先生の口が開いた。
さっきの空気が変わったような歓声はこれか。脳内では平静を装うことで精一杯だった。鈴城くんが「誰ですか?」と聞いている。
「俺のお題は…好きな人です」
耳を塞ぎたくなるくらいのざわめきがグランド中を覆って、それに共鳴し無さ過ぎる気持ち悪さがボクの中にあった。
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