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「成瀬先生。前にも言ったんだけど、やっぱり諦められません。好きです。少しでも俺の事考えてくれませんか?」
灰がマイクを受け取った。全生徒、職員がその言葉を待ち望んでいる。どんな言葉をどんな声であの成瀬先生は応えるのかと。
こんなに近いのに灰の顔は見れない。灰が小さく息を吐いたのが分かる。
小野塚先生の告白に灰が答えを渡してしまう。その瞬間ボクの中の何かが突き動かされ、灰から強引にマイクを奪い取った。
保健医らしくない行動も生徒達のザワザワも小野塚先生から伝わる険悪な空気も、もうどうでもいい。もうどうでもいいからボクをこれ以上イライラさせないでほしい。
「小野塚先生」
なんだか驚いているような灰の腕を取る。踵を浮かせて、引き寄せて、その唇を自分の唇で塞いだ。
灰の体温に心が落ち着く前に離れて、小野塚先生には特別な笑顔を浮かべて向き合った。
「成瀬先生はボクのなので、気安く告白なんてしないでください。とてもムカつくので」
言いたいことはまだまだあって、再び口を開こうとした瞬間、ハッと我に返ってしまった。今まで忘れていた日差しの強さと周りの大きすぎる反応と背中を伝う冷汗と…一気に流れ込んでくる情報にフリーズしかける。
あれ、待って、今ボク何した?
①灰にキス(全生徒、職員の前)
②灰は自分のもの発言(全生徒、職員の前)
落ち着いてゆっくり順を辿って思い出したのがいけなかったらしい。羞恥心と情けなさに見舞われて近くの腕を引ったくって文字通り逃げ出した。
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