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足を止めれば、急に我に返ったように呼吸が苦しくなる。その場所に佇んでいた木に寄りかかり呼吸を調えようと深く空気を入れた。
後ろの遠い所から歓声なのか悲鳴なのか体育祭の楽しそうな独特な空気感が肌に纏わりついてくる。その空気感と自分の失態をまとめて拭う。
汗が凄い。
ボクが引ったくって連れて来た人物も肩で息をする。とても苦しそうだ。
「…大丈夫?鈴城くん」
その瞬間繋いでいた手を振り払い、顔を上げてキッと当然のように睨みつけてくる。
「大丈夫なわけないでしょっ…逃げ足だけは速いんですね?」
「だけって何さ!どういう意味?競技の時だって頑張ってたじゃん!」
「言葉のまま理解していただければ…というかあの場所で僕の手を引くのはおかしいと思います。残された成瀬先生の気持ちを考えてください」
薄々気付いていた事を指摘され一瞬言葉が躊躇われた。窺うように鈴城くんに視線を送ると心底哀れんでいるような目と合う。それは侵害だと文句を投げる。その文句は言い返されるような予感もあったが呼吸も正常になりかけで更に言葉を吟味よりも先に口に出てしまった。
「だって鈴城くんだってあの場所に置き去りは嫌でしょ?」
「嫌ですけど、僕は当事者ではないですし、1人でその場から離れますよ」
鈴城くんの言葉で拗ねた空気を全面に出すが当たり前に無視された。
「で、どうするんですか?この後」
「…もう戻りたくない」
隠すこともせずに溜め息をつく鈴城くんに目線で助けを請うと再び呆れられる。
「貴方は男前なのかヘタレなのかどっちかにしてくださいよ。めんどくさい」
「男前だよ!カマキリ素手で捕まえられるし!」
睨まれた。
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