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呆れたように笑った灰はもうぐしゃぐしゃの髪では無くなっていて、ボクの両手も離された。
灰がボクの顔を覗き込んでくる。
「1回で良いですか?」
「じゃあ2回で」
「じゃあって何だよ」
ベシッと叩かれた頭に不満がいっぱいだが、文句はボクに言わせなかった。
軽く唇がくっついて離れて、もう一度目を合わせてからお互いにキスをした。
こういう瞬間が堪らなく幸せに感じる。
「灰。好き」
「…この後仕事戻らねぇとなんだけど」
「いってらっしゃい」
はぁ、と大きな溜め息をつかれた。お返しなのか何なのかぐしゃぐしゃとボクの髪を鳥の巣みたいにして灰は空のカップの乗るトレイを再び運びだした。
「今髪ぐしゃぐしゃにする必要あった!?」
「気を紛らわせただけ」
それからのボクの質問は全て却下され、灰はきちんとティーカップを洗って体育祭の会場へと戻っていってしまった。
たぶん大変なのはこれからだ。その事を身を持って知る事となるのはもう少し時間が経ってから。
呑気なボクは体育祭の途中棄権を決め込んで保健室でのお昼寝の用意をいそいそと始めた。
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