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いや、お父様ポジション?とこの状況下で随分お花畑な事を考えていると小さな違和感に気付いた。
あれ、灰は?
この危機的状況にも関わらずボクが呑気な脳内でいられる安心材料の働きが無い。そう気付いてしまったら不安の色が襲ってきた。
普段ならここで教科長に一言二言投げつけ自分の良いように事を持って行く筈なのに今は難しい顔で黙ったままの灰。
「それに成瀬先生も自分の立場をもっと良く理解してくれないと。貴方は生徒以上に教員からも見られてるのだから。今回は自分の置かれた立場を省みる機会として前向きに受け取ってはくれないかね?」
無言。
どうしよう。とてもソワソワしてしまう。
教科長がその無言をどのように取ったのか分からないが、話しはどんどん進んでいく。
「本当は教員の私生活まで口を出したくないが、これから騒ぎになるだろうし、その間少しでも生徒への刺激にならないように努めてほしい。成瀬先生のクラスは3年のSクラスなのだから特に…まぁ貴方なら分かっているとは思うがね」
皺の目立つ目許に影を落とすように細めた瞳を灰に置いた。今日は灰からの攻撃的な発言も受けてないので調子が良い。
はぁ、と隣りから溜め息が聞こえる。あ、これは良くない。反射的に感じた。
「……分かりました」
自棄になってる様子も無ければ諦めたような様子も無かった。本当に普段通りの声質で普段通りの灰だった。
教科長は目に見えて気を良くして、灰を褒める。ボクは当事者な筈なのに薄い硝子の向こうの事を眺めているような気分だった。
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