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次の朝は、お陽さまが待ち切れなくて、ボクは暗いうちから歌い始めた。
お陽さまは今日は顔を見せなくて、代わりに近くまで降りてきた雲が、雨粒を落としていた。
でもなぜかボクは全然濡れなくて、昨日みたいに思い切り歌えたんだよ。
「綺麗な声ね、あなたは。
いくら聴いてても飽きないわ」
不意に話しかけられて、びっくりした。
「きみはだあれ?」
「あなたがしがみついてるのが私。クスノキよ」
「あっ、これがきみなの?
ごめんなさい、勝手によじ登って」
「気にしないで。
そこはあなたが生まれた場所。あなたが私の足元に潜っていく前から、私はあなたを知ってるの」
「ボクが歌えない時から?」
「ええ。ずっと待ってたの。
だから気にせずに好きなだけ歌って。あなたの歌が聴きたい」
よく見たらクスノキは、腕を広げ指を開いて、ボクが雨に濡れないように包んでくれていた。
雨音のなか、ほかの歌声は聴こえない。
包まれた腕のなかで、涼しい風がさわさわと吹き抜ける。
「ありがとう。ボクの声を誉めてもらって嬉しい。
きみはボクの、初めての友達だよ」
「私と友達になってくれるの? ありがとう」
クスノキは微笑んだけれど、なぜだかどこか悲しそうで。
ボクは彼女を笑顔にしたくて、また1日中歌うぞ、って張り切った。
昼からは雨が上がって、お陽さまが現れた。
陽射しを浴びてウキウキしながら、ボクは一層高らかに歌った。
クスノキは、時々ボクに陰を落としながら、ニコニコ笑って聴いてくれて、嬉しかった。
お陽さまがまた沈んで、すぐに現れた糸のような細いお月さまが沈むまで、ボクは歌い続けた。
楽しくて楽しくて、いつまでも歌える気がしてたんだ。
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