39人が本棚に入れています
本棚に追加
またお陽さまが昇ったら、なんだか身体がだるかった。
でも歌いたい。クスノキの笑顔が見たいもの。
いつにも増して、ボクは心を込めて歌い始めた。
声がちょっと変だったけど、歌い続けた。
クスノキが心配そうに言う。
「疲れたでしょう。こっちの日陰で、ちょっと休憩しなさいな」
「嫌だよ。歌っていたいんだ。
歌わなきゃ、きみはボクを見てくれない気がする」
「いつも見てるわ。ずっと見てる」
「じゃあどうして好きって言ってくれないの?」
クスノキはまた、悲しそうな顔をした。
違うよ、ごめん、そんな顔をさせたい訳じゃないんだ。
ボクはやっぱり歌わなきゃ。
歌ってクスノキを笑顔にしなきゃ。
なのに。
気がついたらボクは、クスノキの身体を離れて、足元に落っこちていた。
風が吹いて、細かい雨が降り注いできた。
ボクを包んでくれていたクスノキの腕も指も、ここには届かない。
冷たい。声が出ない。
もう歌えない。
歌えないボクはダメ?
歌えないボクは嫌い?
クスノキから離れたら、僕はどこへ行くのかな。
クスノキの声がした。
「私はここにいるわ。あなたを見てる。ずっと見てるから」
あなたが大好きだ、って、聞こえた。
『うん。ボクも大好き』
心で呟いたボクの声が、雨に溶けて地面に染み込んでいく。
『大好き』
雨を、初めて気持ちいいと思いながら、ボクはどこかへ吸い込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!