クスノキ

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次の朝になっても、あの子はまだじっと動かず、そこにいた。 気になる。 大丈夫なのかしら。どこか具合が悪いのかしら。 風が流れて、あの子の背中をふっと押した。 あ、あの子、ちょっともぞもぞした。 あ。あ。 そしてあの子は、堰を切ったように歌い始めた。 今まで聴いたことのない、美しい声! 私はただただ聞き惚れていた。 幸せな、幸せなその1日。 あの子は日が暮れてもなお、嬉しそうに、楽しそうに、歌っていた。 私はその声に揺られて、久しぶりに満ち足りた微笑みをこぼしていた。 次の日は、夜も明けきらないうちから、あの子は歌い始めた。 まあ、お行儀悪い。安眠妨害よ、普通なら。 でも、あの子が気持ち良さそうに歌う声はやっぱり綺麗で、聴いてる私も気持ち良くて。 ずっと聴いていたいと思った。 雨が降り始める。 あの子の歌が途切れるのが嫌で、私はあの子が濡れないように、精一杯腕を広げた。 ああ、本当に気持ち良い歌声。 「綺麗な声ね、あなたは。いくら聴いてても飽きないわ」 気づいたら、独り言のように話しかけていた。 もう長いこと、小さな子達に声をかけることなど、なかったのに。 いえ、声を出すことさえ忘れていたのに。 あの子は、最初はびっくりしていたけれど、私のことを、初めての友達だと言ってくれた。 私にそんなことを言ってくれた子は、いつぶりかしら。 嬉しい。 でもその分、別れが来るのが怖かった。 怖かったの。
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