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夕立に始まる恋物語
恋心は夕立に似てる。
気付いたらモヤモヤが広がっていて、どんどん重くなる気持ちが激しい雨を降らす。
そして気持ちを伝えれば、スッとした空が包んでくれる。
「はぁ…」
だが、私の心には今もまだ激しい雨が降り続けていた。
三年間降り続けている、彼への気持ち。
まるで大きな、積乱雲。
「よしっ、行ってきます!!」
よく晴れた八月。四方を綿あめが囲み、真上を見上げればブルーハワイが色濃く広がっている。
正直家から出るのが嫌になるくらい暑いけど、今日はやらなきゃいけないことがある。
高校一年のころ。入学式で彼を見かけたとき私の心臓が飛び跳ねた。
中学からの知り合いだったわけではないし、もちろん名前も知らない。
でも、
「かっこいい…」
こういう気持ちが芽生えちゃうのって、なんでなんだろう?
しかも驚いたことにクラスも同じ。席は離れてたり近付いたり。どちらにしろ話しかけることはできなかったけど。
彼はとてもクールだった。
授業中は真剣に先生と向き合い、休み時間も何事かノートに書き記したりそれをじっくり目で追っている。
(なに書いてるんだろ? もしかして予習とか?)
疑問はたくさんあったけど、聞くことができずにいた。
真剣な眼差しでノートを読んでいる彼の横顔。直視していると息ができなくなるから。
苦しい。けど、ずっと見ていたい。
彼はとても女子からモテた。
私も何回か女の子が勇気を出していたところを目撃したことがあるし、友達にも告白したんだよって話を聞かされた。
しかしみんな、決まってこんな台詞で気持ちに整理をつけられる。
「悪い。誰かと付き合うとか、今はあまり考えてないんだ」
とても青春真っ盛りの高校生とは思えない台詞。いつだって彼の周りには、
「○○ちゃんフラれたんだって」
「あいつ冷たいよなぁ…」
「でもそこが良いんだよー」
「もしかして男が好きなんじゃね?」
って話が飛び交っている。
実際どうなんだろ? 誰かと付き合ったことがあるかないかもそうだけど、もしかしたら本当は誰か好きな人がいるんじゃないかな?
とか、そんな妄想を当時の私はしていた。
でも私たちが卒業するまで、彼が誰かと付き合っていたり、告白したりするなんて話は聞かなかった。
高校の三年間誰とも色恋沙汰にならず、ただひたすらノートと向き合っていた彼。
卒業してから二年経つけど、そんな彼が今も好きな私はかなり物好き。
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