夕立に始まる恋物語

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二十歳の成人式に彼の姿はなかった。どうして出席していないのか不思議だったけど、顔を合わせずに済むのだと思うとホッとする。 (どっかでまたノートに向き合ってるのかな…なんてね。そんな引きこもりなわけないもん) 心の中で笑っちゃうくらいだった。 「おかーさーん、私ちょっと出掛けてくるねー!!」 「あらあら、なぁに、せっかくの夏休みなのに」 「いや、夏休み関係ないでしょ…」 私のお母さんはどこか抜けている。けど家事はなんでもこなせるスーパーお母さん。 幼さの残るお母さんの顔と私はよく似てる、と言われる。私にそんな自覚はないんだけど。 お母さんは艶々の黒髪をぶっとい三つ編みにしていて、それを肩から胸元まで垂らしている。 「ていうか夏休みだからこそ出掛けるものじゃない?」 「暑いのに?」 「そこは我慢だよ!!」 「ところで、誰とお出掛けするのかしら? あらやだ、彼氏なんかいつできたの? 今度お母さんに紹介しなさいね? あ、お父さんには気を付けなさい、いつ見てるかわからないから」 「ちょちょちょ!! 勝手に話進めないでよ!! ていうかお父さん何してんの!?」 「で、誰と行くの?」 「……一人で…」 「どこ行くの?」 「お、お母さんには関係ないでしょ…」 「彼氏のお家?」 「まだ彼氏じゃないし!! もう、そんなんじゃないってば!!」 「好きな人のお家なんだぁ?」 「だからちが―――」 「だって“まだ”彼氏じゃないんでしょ? じゃあその人は男の子で、いつか恋人同士になりたい片想いの相手、ってことなのよね」 「…………………あぅ」 「あらあら、まぁまぁ」 赤面して冷や汗だらだらな私と、余裕たっぷりにニッコリ微笑むお母さん。顔は似てても性格は全く似てない。 いや、これは私が迂闊だった。うっかりお母さんの誘導尋問に引っ掛かった。 「だいたい、そんな気合いの入った格好してたらお母さんじゃなくても気付くわよ」 ポンと肩を叩かれた。やっぱりお母さんには敵わない。 「別に…き、気合い、入れてないし…!!」 「キョドっちゃって可愛い。大丈夫よ、その向日葵柄でヒラヒラしたワンピース、天真爛漫で清楚な感じが出てるから。唯ちゃんの狙い通りのコーディネートよ。帽子も清楚さのポイントなのかしら? あ、それとも然り気無く置かれた日傘?」 「なんでわかるの!?」 確かにちょっとフリルがついてて向日葵の絵がプリントされてるけどさ!!
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