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帽子と日傘は単純に暑さ対策だけど、お母さんに指摘されると、まるで私が無意識のうちにそれを選んだかのように感じてしまう。
とにかく、これ以上お母さんと話してたら恥ずかしさで熱中症になりそうだから、私は足早に玄関に向かった。
「じゃ、行ってくるから」
「固い固い。唯ちゃんカッチカチじゃなぁい。それにご飯も食べてないし」
「いいよ、お腹減ってないから!!」
くぅぅ~…。
そんなことないよ、お腹ぺこぺこだよ!! って訴えが私の下腹部から響いた。
「あらあら、まぁまぁ。良かったわねぇ、好きな子の前じゃなくて」
「うるさいなぁ!! ご飯食べる!!」
「はいはい、精のつくものにしましょうね」
「ななな何言っちゃってんの!? そんな気遣いいらないよ!!」
「やぁねぇ、夏バテ対策よ。……あらあらぁ? 唯ちゃんもしかして変なこと考えちゃったかしら?」
「へぇお昼ソウメン!? 確かに余ってたもんねー!!」
「あらあら、まぁまぁ」
話を逸らそうと躍起になったけど、顔が真っ赤なんじゃそれもうまくいかない。お母さんの意地悪。
私は自分で鍋を用意してソウメンを茹で始めた。ソウメンって食べるときは涼しいけど、作る間は暑い。
汗を拭いつつ茹でていると、横合いからお母さんが顔を出した。
「お母さん嬉しいわ」
「何よ、藪から棒に…」
「唯ちゃん、恋愛したことないでしょ? 今まで誰かを好きになったこと、なかったでしょ?」
「…………」
お母さんは穏やかな笑顔で質問を重ねる。
思い返すと、確かに今まで誰かを好きになったことはない。ないことはないけど、友達として好意を抱いた程度。
だからこんなに人を好きになったのは、これが初めてなんだ。
お母さんは私の沈黙を肯定と捉えて続ける。
「私ね、唯ちゃんが女として成長してるんだなぁ…って実感できたわ。唯ちゃん昔からがさつだったから、男の子ともお友だち止まりだったものね…」
「一言余計よ…」
否定できないのが辛い。
「けど今は、乙女な顔してる。きっとお父さんなら、昔の私にそっくりだって言うでしょうね」
「……それを自分で言うんだ…」
きっと間違ってはいないだろうけど。いつでもお母さんの言うことは正しかった。
私は今、乙女な顔をしているんだろう。……何これ恥ずかしい。
ソウメンが茹で上がったので、氷水の入ったボウルに移す。やっと暑さから解放された。
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