第1部第1章

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ラインとルプレヒトの2人が国をうれいていたころ。 ローゼルツ帝国より海を越えて東の大陸は影大洋諸国と呼ばれていて、 海軍の国フィロソフィアでは政変が起こっていた。 バールバラ伯爵領にあるハワード邸の庭はエデンの園を彷彿とさせるほど美しく、また池には錦鯉が悠々と泳ぐなど遥か東方の空気もあった。 800年続く伯爵家ハワードの当主アーサーは薔薇の手入れをしていて、 異母弟のヘンリがこちらに歩いてくる姿を見つけると手を振った。 異母弟ヘンリは会うなりこう言った。 「王制も倒れた。 オレは海軍に入って、兄貴をかげながら支える。 これが兄貴の為だ」 伯爵アーサーは驚いて異母弟ヘンリを引き止めた。 「私の為? 私はお前を失いたくない。 何もこんな時世に軍人にならなくても…」 そう言ってひきとめたのだが、ヘンリは言うだけ言うとさっさとバスに乗って行ってしまう。 アーサーも急いで後を追った。 ヘンリが家出した翌日に、アーサーの母マティルダ王女は将軍からこの話を聞いた。 「ハワード家にも困ったものですね。 アーサーに気をつけるように言いなさい」 マティルダ王女はアーサーの父と離婚していて、再婚相手の連れ子のヘンリが苦手だった。 しかもアーサーの父エリオットとヘンリの母は事故で他界したばかりで、アーサーの祖父は この国の王なのだが、会談に赴いた所を アルメリアという軍事国家の独裁者に捕らわれてしまい、 救出作戦が繰り広げられるものの未だ成功していないので、 マティルダの頭痛の種は増えるばかりであった。 救出作戦には子供の頃、潮干がりに来ていた王に拾われた特殊部隊の士官スティブルストン中尉が加わっていて、 将軍はマティルダ王女に面会した後、彼を呼んだ。 スティブルストン中尉は子供の頃から世話になっている老将軍に敬礼すると、 将軍が何故自分を呼んだのかを聞かされた。 「君には、士官候補生ばかりなのだが、その若い部隊を指揮して光大洋諸国へ渡ってもらうことになった」 「閣下、しかしフィールドバリアがあるので渡れなかったのではありませんか?」 「そのために新型潜水艦を配備した。 後は軍港から艦長の指示に従ってくれ」 「今回は偵察任務ということでよろしいのですか?」 「そうなるだろう。健闘を祈る」 「心得ました」 こうしてスティブルストン中尉は任務につくことになった。
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