プロローグ

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「まもなく終点、夢見ヶ丘ー、夢見ヶ丘ー。お忘れ物等ございませんよう、ご注意ください」 特急電車の電子的な機械音と、アナウンスが真っ暗な私の意識に呼びかけてくる。コックリコックリとまどろんでいた私は、ゆっくりと目を開けて顔を上げた。 ボーっと景色を見る。この風景には見覚えがあった。 どこを見ても木々の少ない土地に並ぶマンションと背の高いビル、そして張り巡らされた電線。それらてっぺんには、いくつもの広告看板。意識が戻る前は田んぼや山々が広がった大自然だったのに、気づけば大都会。 まるで異世界に迷い込んでしまった様な感覚。でも今見ている風景の懐かしさに、心が躍るようだった。 ……と、いきたいところだけど、寝ぼけていた私はそんな感傷に浸る場合じゃなかった。 もう着いてしまったのかと焦った私は慌てて席を立ち、乗車口を目指す。 「お姉ちゃんお姉ちゃん」 その時、相席だった黒縁眼鏡をかけたサラリーマン風の男の人に呼び止められる。振り返ると言葉はなく、人差し指で座席の上の荷物置きを指した。 そこには、私が乗車した際に置いた大きな水色のキャリーバッグ。窮屈そうにそこから出たがっているみたいだった。 「あ、ありがとうございます」 ペコリと何度も頭を下げて荷物を降ろし、今度こそ乗車口に向かう。 その途中で電車に振られて、他の乗車客にぶつかる。 「あ!ご、ごめんなさい、ごめんなさい」 再び何度も頭を下げる。 そんな紆余曲折を経て、やっと乗車口扉の前に立つ。息を落ち着かせると、やっと帰って来たという実感が湧いて嬉しくなってきた。 5分くらい経って電車が止まり、扉が開く。先頭に立っていた私は、後ろに並ぶお客さんに押し出される様に駅のホームへと飛び出した。 「はぁ、はぁ……ふぅ…」 どうにも私は人ごみの忙しなさが苦手みたいで、人の波から一旦離れてホームの柱の傍に立って辺りを見渡すコトにした。
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