1人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後、僕といーちゃんは相変わらず秘密基地にいた。
遂にこの日が来てしまったと、感慨深く考える。
今日は僕が隣町に引っ越す日だ。
本当は、朝に親と共に荷物をのせたトラックといっしょにこの町から旅立つことになっていたけど、我が儘を言って夕方までこの町に残らせてもらった。
夕方に僕の家の前に、隣町から先に行った父さんが迎えに来ることになってる。
「…………」
「…………」
お互いに気まずい沈黙。
最初に口を開いたのはいーちゃんだった。
「…………まさか、中3になってから転校する人がいるとはね」
「………しょーがないだろ? 親の転勤なんだから」
「ねぇ、かーくんだけでもこっちに残れないの?
なんなら私の家にでも………」
今日まで何度も繰り返してきた質問をいーちゃんが聞いてくる。
「ううん、やっぱダメだって」
そして、それは僕が何度も両親に相談したことでもあった。
「そっか………」
「…………ごめん」
「ううん、やっぱり家族はいっしょにいた方がいいもの」
「…………ごめん」
「もぉ、そんなに謝らないでよ」
「…………うん。わかった。ごめん」
「また謝ってるし」
「あっ」
「ふふっ、ばーか」
「…………うっせ、あーほ」
昔から、口癖みたいに言い合ってる言葉を言ってやっと少しだけ、いつもの調子に戻れた気がした。
「なぁ、いーちゃん」
「何? かーくん」
「…………約束しないか?」
「何の?」
「再会の約束」
「いいわよ。 じゃあ、1週間後の5時にここで会わない?」
「わかった。………ねぇ、いーちゃん」
「ん?」
「ありがとな」
「ふふっ、どういたしまして」
また彼女に会えると決まり安心した。
だからかもしれない、衝動的に言わないって決めていた言葉が口からとびだしてしまった。
「ねぇ、いーちゃん。 好きだよ」
「……………」
一瞬、唖然としたいーちゃんの顔がみるみる赤く染まっていく。
きっと僕の顔も似たようなものだろうけど。
「…………今さらね」
「…………確かに今さらだな」
「私も好きよ」
「そっか、もっと早く言っとけば良かったな」
「そうね」
「…………あーほ」
「…………ばーか」
そして、いつの間にかどちらともなく抱き合っていた。
「大好きだよ」
「うん、私も」
それが、僕がこの町を出た日の出来事だった。
最初のコメントを投稿しよう!