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カルツォーネを食べ終わる頃、今度はパスタが出てきた。
もうお腹いっぱい。
雅人にほとんど食べてもらって、仲嶋さんには結局会えないんだと思っていたら、コックコートを着た仲嶋さんがデザートを持ってきた。
「はい。ドルチェの盛り合わせお待たせ」
「もう食えねぇよっ」
「デザートは別腹。だよね?香織ちゃん」
仲嶋さんは私ににこっと笑う。
「…いただきます」
「よし。まずこれがフランボワーズのソルべ、こっちはバニラアイス。で、このタルトが芋とカボチャでもう一つ桃のタルト。こっちのケーキはガトーショコラとチーズケーキ。ブルーベリームースにメロンゼリー。
たんと召し上がれ」
多い…。
しかも1つ1つ大きい…。
「多すぎだろ。サイズ小さくして作り直せ。1個販売の大きさで盛り合わせるなよっ」
「…特別仕様」
「いらない」
「…香織ちゃん、食べてね?」
私は苦笑い。
この人には敵いそうにない。
「香織ちゃんデブらせるなよ。んじゃ俺がいただきます」
なんて言いながら仲嶋さんの彼氏が向かい側のベンチシートに座った。
「…香織ちゃんのために作ったのっ。ケーキ焼き立てっ」
「張り切りすぎ。はい、香織ちゃんどうぞ」
仲嶋さんのデザートを取り分けて一口ずつくらいにして渡してくれた。
私はありがたくそれをいただく。
そのうちお店も半ばクローズのアイドルタイム。
みんな寄ってきて、みんなでデザートになった。
楽しい職場。
雅人がうらやましく思った。
着替えた雅人とお店を出て、雅人の車で花火大会へ。
人混みはしんどいから車の中から見えるところに駐車して、花火があがるのを待つ。
暗くなっていく空と、雅人の車に流れるラジオの音楽。
ボサノバのリズムにあの喫茶店を思い出す。
私が働いているところでもないけれど。
雅人にも知ってほしいかもしれない、私のお気に入りの隠れ家。
もういったことあるってなりそうな場所だけど、一緒にいきたい。
「別に仲嶋と恋愛とかそんな雰囲気なかっただろ?」
「…あの山盛りデザートは嫌がらせ?」
「…天然馬鹿だと思う。むしろ嫌がらせは店長のパスタ」
私は笑う。
あのパスタは厳しかった。
「……香織」
雅人は私の袖を摘まんで。
何かと思って雅人のほうを見ると、また襲おうとしてくれる。
私は雅人の鼻に指を当ててキスを止める。
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