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腕枕より背中にくっついているのが好き。
服を脱ぐと意外と筋肉のあるその体も好き。
意外と太い腕が好き。
弱虫な私を包んでくれるその腕が好き。
雅人は私が寝ている間に仕事にいって、私は起きてシャワーを浴びると浴衣に着替える。
気合い入れてメイクして、髪にも気合い入れて。
とはいっても浴衣だし、ケバくならないように気をつける。
女にだって勝負の瞬間はある。
ただの浮気相手だろうが、雅人に抱かれたことがあるのは事実で。
その過去は消せないけど、もう一回、何回でもと思われないように、私の存在をアピール。
こんなにかわいい彼女がいる男にして、他の女に言い寄らせない。
浮気くらいと、私のところに戻ってくるしと許していたら、そのうち本当に奪われる。
好きな人を奪われてしまわないように、私もがんばってつきあっていかなきゃ。
でも毎日、そんな気合い入れていたら疲れてしまいそうだし。
たまにのデートくらいで許してね?
残暑残る空の下、下駄をカラコロさせて浴衣姿で歩く。
お店に到着して、もう一度気合いを入れるとその扉を開けた。
ランチタイムを少し過ぎた店内は、少しのお客様だけ。
涼しい空調にほわっとなってしまう。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
にこやかな笑顔で私に声をかけてきた店員は牧田さん。
「はい。お一人様です。…あの、少しだけ城田さんにきた挨拶をしたいのですが」
私もにこやかに言葉を返して、雅人に顔を見せたいと伝えてみる。
「城田さん?…あっ、城田さんの彼女っ」
牧田さんは思い出したように言ってくれて、私はにっこり。
「…なんか…かわいいですね。浴衣姿」
「ありがとうございます」
「えと、あ、オープンキッチンになっているので、こちらに」
牧田さんは私をキッチンの近くへと案内してくれる。
キッチンの中からはすでに雅人が気がついて、こっちをうれしそうに見ていた。
ダブルのコックコート、赤いネクタイ。
コック帽にエプロンつけて、本当にシェフだ。
「いらっしゃい。ピザ食う?ミートソースつけて食べるカルツォーネにする?」
雅人はそんな言葉をかけてくれる。
「一人で食べられないよ、そんなの」
「もうあがりだし、一緒に食べよう?」
私はうんと頷いて、雅人が見える席に牧田さんは案内してくれる。
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