現在、過去、未来

35/39
前へ
/39ページ
次へ
腕枕より背中にくっついているのが好き。 服を脱ぐと意外と筋肉のあるその体も好き。 意外と太い腕が好き。 弱虫な私を包んでくれるその腕が好き。 雅人は私が寝ている間に仕事にいって、私は起きてシャワーを浴びると浴衣に着替える。 気合い入れてメイクして、髪にも気合い入れて。 とはいっても浴衣だし、ケバくならないように気をつける。 女にだって勝負の瞬間はある。 ただの浮気相手だろうが、雅人に抱かれたことがあるのは事実で。 その過去は消せないけど、もう一回、何回でもと思われないように、私の存在をアピール。 こんなにかわいい彼女がいる男にして、他の女に言い寄らせない。 浮気くらいと、私のところに戻ってくるしと許していたら、そのうち本当に奪われる。 好きな人を奪われてしまわないように、私もがんばってつきあっていかなきゃ。 でも毎日、そんな気合い入れていたら疲れてしまいそうだし。 たまにのデートくらいで許してね? 残暑残る空の下、下駄をカラコロさせて浴衣姿で歩く。 お店に到着して、もう一度気合いを入れるとその扉を開けた。 ランチタイムを少し過ぎた店内は、少しのお客様だけ。 涼しい空調にほわっとなってしまう。 「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」 にこやかな笑顔で私に声をかけてきた店員は牧田さん。 「はい。お一人様です。…あの、少しだけ城田さんにきた挨拶をしたいのですが」 私もにこやかに言葉を返して、雅人に顔を見せたいと伝えてみる。 「城田さん?…あっ、城田さんの彼女っ」 牧田さんは思い出したように言ってくれて、私はにっこり。 「…なんか…かわいいですね。浴衣姿」 「ありがとうございます」 「えと、あ、オープンキッチンになっているので、こちらに」 牧田さんは私をキッチンの近くへと案内してくれる。 キッチンの中からはすでに雅人が気がついて、こっちをうれしそうに見ていた。 ダブルのコックコート、赤いネクタイ。 コック帽にエプロンつけて、本当にシェフだ。 「いらっしゃい。ピザ食う?ミートソースつけて食べるカルツォーネにする?」 雅人はそんな言葉をかけてくれる。 「一人で食べられないよ、そんなの」 「もうあがりだし、一緒に食べよう?」 私はうんと頷いて、雅人が見える席に牧田さんは案内してくれる。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加