現在、過去、未来

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雅人が同じキッチンの人にからかわれながら作ってくれるのを見ていた。 ご飯を作ってくれるのは何回かあったけど、こんなふうに仕事として作っているのを見るのは初めて。 ちょっとかっこいいなと見とれていたら、私の席に牧田さんがアイスコーヒーを持ってきてくれた。 「店長からの奢りです。えーと、あのパスタ茹でてる人が店長です」 牧田さんに紹介されてそっちを見ると、明るく笑うおじさんが私に手を振っていた。 私は会釈。 不満そうにされて、笑ってしまいながら手を振り返す。 「…と紹介するように言われてきたんですけどね」 なんて牧田さんは嫌そうに言って、キッチンのほうに呼ばれて返事をするとキッチンへ。 キッチンの中にいた、あの仲嶋さんの彼氏が牧田さんに何かを渡して、私に手を振ってくる。 手を振り返すと喜んでくれる。 牧田さんは私の前においしそうなサラダを持ってきてくれた。 「…生ハムのミモザサラダです。…メニューにないんですけど、こんなの」 メニューにないんだ…。 なんだか特別扱い。 …仲嶋さんが浮気したのは…、あの彼氏が原因だろうか。 なんだか女の子に手が早そう。 雅人のほうが奥手に思える。 サラダをありがたくいただきながら、雅人をたまに見て、店内の明るくお洒落な雰囲気を楽しむ。 雅人は釜の前にほとんどいて、揚げ物もみているらしい。 雅人が油くさい理由。 焼き上がったカルツォーネをお皿に。 別の深みのある器にたっぷりのミートソースを入れて。 おいしそう…。 雅人はキッチンから出てくると、カウンターに出したそれを手にして、私の席に持ってきてくれた。 「はい。お待たせ。ご希望のミートソース。中身熱いから少し冷めるの待ったほうがいいかも」 雅人はカルツォーネを切って、食べやすい大きさに取り分けてくれる。 …シェフだ。 コックコートの雅人にときめく。 「隣座る?」 「…座る」 雅人はうれしそうに返事をして、前の席もあいているのに、私の隣のベンチシートに座る。 「香織、かわいい。浴衣姿。髪もなんかお洒落」 雅人の指が私の頬に軽くふれて、誉めてくれてうれしくて恥ずかしい。 「今日は特別だから」 「特別?」 雅人は帽子を脱いで、髪を軽くほぐして。 出来立てカルツォーネを一口。 「あ。先食べるっ?」 「毒味。…うん。まあまあ」 「あーん?」 口を開けてねだってみると、雅人は笑って食べさせてくれる。
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