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気づかないはずがなかった。
それでも見て見ぬ振りをして僅かな誤差を修正し、しかし初潮を迎えた辺りから感じ始めたそれは、中学生になったのと同時についに確かなものへと変わり、十七歳になると同時に誤魔化しを諦めた。
いや、正確には誤魔化せなくなったのだ。
淫らにアイスキャンディーを銜えながら、畳の上に寝転がる。
どうしようもなく夏で、夏休みだった。
ものの見事に真っ白になったスケジュール帳をゴミ箱に投げ入れて、ちゃぶ台の上にあるであろうリモコンを左手で探す。
ついでとばかりにタンクトップを胸まで捲って、扇風機の頭を足で操作して腹に風を当てる。
お母さんに見られたら怒鳴られること間違いなしなのだけども、そこは学生の特権。
家には今、私しかいないのだ。
お父さんは仕事で、お母さんも仕事で、妹はデートである。
「妹が彼氏のを銜えているのに、私はアイスですか、そうですか」
乾いた自嘲の笑いを居間に響かせる。オヤジか。
テレビの向こうでは、今日も球児たちが汗と涙を流している。
クソ暑いのにご苦労様って感じだ。あるいはご愁傷様、か。
私が初めて野球ボールに触れたのは幼稚園の頃で、きっかけは父とのキャッチボールだった。
余談ではあるが、私の父は中高と水泳部員であり、球技に関してはからっきしだ。
そんな人間が何を思って四歳だか五歳だかの娘をキャッチボールに誘ったのかは未だに謎なのだけれども、しかし私はその件が原因で、野球というスポーツが大嫌いになった。
何故か?
お父さんの投げたボールが顔面を直撃したからである。
大人げないことに、彼は私にキャッチャーをやれ、と命じたのだ。
そして全力投球。結果は鼻の骨折。酷い経験で、言うなればトラウマで、記憶が曖昧な時期の出来事だというのに、今でも鮮明に覚えているのにはそういう訳がある。
苦笑を浮かべた私の耳に馴染みのメロディーが届いたのは、鳩時計が正午を告げるのと殆ど同時だった。
妹に勧められて――というか半ば強引にスマホに買い替えさせられた私は、操作に戸惑いながらもようやく通話開始。耳に長方形のそれをあてる。
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