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3.
「――きて。麟那姉さん起きて!」
「んん……」
「起きてってば! 今日、一緒にお買い物行く約束でしょっ?」
ああ、そういえばそんな約束もしていたっけ。でも、まだすごく眠い……
「んむゃ……あとりょっぴゃっぴゅん……」
「言えてないし、それ五時間だよね!? ああもう! また毛布被っちゃったしぃ!」
「本当に、まだ眠いのよ……。九時間で良いから寝させて」
「麟那姉さんは謙虚だなー、あこがれちゃうなー」
それほどでもない。
「――なんて思うわけないでしょっ! む~、いいよ! 起きないなら、こうしちゃうもん!!」
……はっ! これは、鈴那式ダブルニードロップの構え!
「ふっ――」
てやー、と迫る鈴那をひらりと回避。たとえベッドとはいえ、思い切り跳ねれば反動も大きい。哀れな妹は両膝を打ち付け、涙目になる。
「ったぁ……なんで避けるの~」
「寝起きにそれをもらうのは、さすがに御免よ。まぁでも、おかげで完全に目が覚めたわ。ありがとね」
目尻に涙を溜めて私を見上げている鈴那の額に、軽くキスをしてやる。それだけでベッドの上に満面の花が咲いた。泣いた烏がなんとやら――本当に分かりやすい子。
「おはよっ、麟那姉さん!」
「おはよう鈴那。ところで、何でまたこんな時間に起こしたの? 今はまだ、パチンコ屋くらいしか開いていないわよ?」
「……ん。コレ、よく見てね」
鈴那が鼻先に付き付けてきた目覚まし時計を、目脂だらけの目で見る。短針は『IX』と『X』の間を、長針は丁度『VI』を指している。パチンコ屋が開店するよりも一時間遅い起床だった。
デパートが開店するまで、後三十分。妹がたたき起こしに来るのも、当然というわけね。
「ごめんなさいね。今から支度するから、朝ご飯もらえる?」
「う~ん……それはいいんだけどぉ、材料ないからご飯とお味噌汁とお漬物くらいしか出せないよ?」
朝からそれは辛い。せめて卵がないと、力(りき)が入らない。
しかし一週間前に買ってもらったはずなのに、もうないなんて……帰りに食材を買いましょう。
「なら、コーヒーだけで良いわ」
「は~い! あっ、麟那姉さん。二度寝なんてしてたらひどいからねっ?」
「はいはい。もう起きましたー」
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