世界渡りの殺し屋

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 頭をガシガシやりながら、まだチラ見している鈴那を、手をひらひらさせて追い出す。あのまま好きにさせておいたら、着替え時でも遠慮なしに覗いてくる。あの子はそういう子だ。  軽くシャワーを浴びて部屋に戻り、今日着ていく服を下着姿のまま吟味する。ファッションは嫌いじゃないけれど、鈴那ほど明るくもないから、申し訳程度に広がるパニエ、生成の丸襟フリルブラウス。黒の、オーバーフット・レングスのジャンパースカートを選んだ。軽く化粧をして十字架モチーフのピアスと、ほんの少しのアクセントに深い紫のストールを首に巻く。  髪をひとつに束ね、前で垂らして完成。色気とは全くの無縁だけれど、愛用の日傘と組み合わせれば、相応にミステリアスな女を演出できる。  居間に行くと案の定、鈴那に「うえー」って言われたので、軽く小突いてやる。まったく……失礼な子ね。  濃い目に淹れられた珈琲を一息に飲み、身体をも覚醒させて、さぁ行きましょう。  外に出ると、すぐさま強い日差しが身体中に熱を伝わらせる。紫外線は肌の天敵――早速自慢の日傘を差す。遮光率99.98パーセント、UVカット率99.7パーセントにかかっては、燃え盛る星からの光も形無しだ。 「鈴那も入る?」 「鈴はSPFたっか~い、PA+++の日焼け止め塗ってきたから大丈夫だよ~。それにしても麟那姉さんって、そんなジミーな服ばっかりだよねぇ」  誰がジミーか。 「たまには可愛いのとか着たりしないの~?」  茶化すように聞いてくる鈴那の格好は、シアンに花柄のキャミソールにピンクのポシェットを提げ、レモンイエローのプリーツ・スカート、同じ色のハイソックスにスニーカー、いつも通りポニーテールにまとめた黒髪をハイビスカスのヘアクリップで飾り、全体的に爽やかに纏めている。モノトーンな私とは対照的に、まるで「冷たいお飲み物をどうぞ」と言わんばかりの、南国のジュースそのものみたい。唇のグロスも相まって、鈴那を普段よりも可愛く、幼く見せている。 「私はこれで良いのよ。あまり目立ちたくないし」 「麟那姉さんはお仕事がアレだもんねぇ……。でも一着くらいは、可愛いの持っておいたほうがいいよ~?」 「あら、どうして?」 「ん~。喬司さんが喜ぶかもしれないじゃん」 「……」
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