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気楽に始めたゲームに、いつの間にか夢中になってしまい、目の前に女の子が立っているのに気付いたのは、ラスボスの殺戮兵器が発狂した時だった。
「あら、迷子になっちゃったの?」
と、当たり障りもなく話しかけてみる。
たとえ子どもが相手でも、決して気は緩めない。“和”のみならず“蟒”に“耶麻”、その他下位組織に到るまで、子どもに暗殺術を仕込むのは極々普通の慣わし。この子がいずれかの組織が放った刺客でない保証は、どこにもない。
「……おねえちゃん、だいじょうぶ?」
六、七歳くらいだろうか。どこまでも純真な瞳を向け、たどたどしい言葉遣いでその子は言ってきた。子どもの精神を甘く見てはいけない。一部の先天的要因を除いて、すべからく子どもは感受性が強い。だからこそ子どもは“子ども足り得る”のだから。
私はふっ、と笑いかけた。断定はできないまでも、この子が刺客の可能性は限りなく低いだろう。結論に達した判断材料も、十分に足りている。
「心配してくれているの? ありがとうね。これ、あげる」
派手な柄の袋に入った飴を、女の子の手に握らせてあげた。
「あめだま……もらっても、いいの?」
「うん。舐めるとしゅわしゅわーって、美味しいよ」
「わあ……ありがとう、おねえちゃん」
――可愛い笑顔をぱぁ、と咲かせた女の子は「またね」と手を振りながら、すぐ後に来た母親らしき人に連れられていった。あの子は将来、中々器量が良い子になりそうね。
謎の余韻を堪能しつつ、ぼーっとしていると、買い物を終えた鈴那の姿が見えた。五万円も渡したのだから紙袋三つ四つは手に提げてくるだろう――と思っていたのだけれど意外にも、たったの二袋。
「お待たせ、麟那姉さん!」
「おかえり。今回はあまり買わなかったのね」
「うん。一番欲しいものは売り切れてたし、一袋で済ませちゃった」
「一袋? じゃあ、そっちのそれは何なの?」
左手に持っている紙袋を指すと、鈴那は「にへらー」としか表現できないような顔をした。この子がこんな顔を見せる時は十中八九、ロクな事を考えていない。
「にへへ~。こっちはぁ、ひ・み・つ♪」
「……まぁ、お小遣いなんだから何を買おうと貴女の勝手だけれどね」
嫌な予感しかしないけれど、私さえ巻き込まなければ何でも良い。
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